ランビックの歴史と定義

ランビックは、ベルギーのブリュッセル近郊、特にパヨッテンラント地方で伝統的な手法で造られる自然発酵ビールです。その最大の特徴は、培養酵母を使用せず、空気中の野生酵母や乳酸菌による「自然発酵(Spontaneous Fermentation)」を行う点にあります。発酵には、セーヌ川流域に生息する**ブレタノマイセス(Brettanomyces)**属の酵母や乳酸菌が関与し、酸味と複雑な風味を生み出します。

ランビックの起源は明確ではありませんが、少なくとも13世紀にはベルギーで小麦を使用したビールが造られていた記録があり、現在のランビックの製法は16世紀から18世紀にかけて確立されたと考えられています。醸造方法は昔ながらのまま受け継がれ、麦汁は「クールシップ(Coolship)」と呼ばれる浅い槽で一晩冷却されることで、自然の微生物を取り込みます。その後、木樽で1~3年間熟成され、複雑な酸味と果実のような風味を持つ独特のビールとなります。

19世紀にはランビックの人気が最高潮に達し、多くの醸造所がこの伝統的なビールを生産していました。しかし、20世紀に入ると、工業的なビール製造技術の発展により、管理が容易で大量生産できるピルスナーなどのラガービールが市場を席巻し、ランビックの生産は大幅に減少しました。さらに、第二次世界大戦後のビール市場の変化により、多くの伝統的なランビック醸造所が廃業しました。

しかし、1970年代以降、クラフトビールの台頭や伝統的な製法への再評価が進み、ランビックは再び注目されるようになりました。特に、異なる熟成期間のランビックをブレンドした「グーズ(Gueuze)」や、サワーチェリーを加えた「クリーク(Kriek)」などが世界的に人気を博し、ベルギービール文化の象徴として再評価されています。現在では、カンティヨン(Cantillon)、ブーン(Boon)、ティルカン(Tilquin)などの醸造所が伝統を守りながら、その魅力を発信し続けています。

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