お酒と渋み

酒類における渋みは、官能的には収斂み/収斂性として知られ、口に含んだ際に舌や口腔粘膜で感じる、ザラつき、乾燥、引き締め感といった触覚的な感覚です。味覚とは異なり、触覚に分類されるのが特徴です。

この渋みの主な原因物質は、タンニンポリフェノール類といった疎水性の化合物で、植物由来です。酒類においては一連の製造過程で原材料から抽出され、化学反応が進み、収斂みも多様に変換されます。

理論: 渋み知覚のメカニズムは、これらの収斂性物質が唾液中のタンパク質と結合し、タンパク質を変性・凝集させることに起因します。

  1. 収斂性物質の溶解: 酒類に含まれるタンニンやポリフェノールが唾液と接触します。
  2. タンパク質との結合: 接触した収斂性物質が、唾液中に存在するタンパク質(特にプロリンリッチタンパク質)と水素結合や疎水結合などの相互作用で結合します。
  3. タンパク質の凝集: 収斂性物質と結合したタンパク質は、凝集し、沈殿します。
  4. 口腔内の潤滑性低下: 唾液タンパク質の凝集により、口腔内の潤滑性が低下し、粘膜表面の摩擦係数が増加します。
  5. 触覚としての渋み: この摩擦係数の増加が、ザラつき、乾燥感、収斂感といった、渋み特有の触覚として知覚されるのです。

酒類の種類によって、渋みの強さや質は大きく異なります。

  • ワイン: 特に赤ワインは、ブドウの果皮、種子、果梗に由来するタンニンが豊富で、渋みが顕著です。白ワインやロゼワインは、製造方法の違い(原料におけるブドウ果汁割合が大きい)からタンニン量が比較的少なく、渋みは穏やかです。
  • ビール: ホップや麦芽(特に色の濃い麦芽)に由来するポリフェノールが渋みの原因となります。ただし、ワインほど顕著ではなく、ビールにおける渋みはバランスを整える要素の一つとして捉えられます。
  • 日本酒: 米由来のタンニンは少ないですが、麹由来のフェルラ酸などが渋みに寄与する可能性があります。しかし、日本酒における渋みは、他の酒類に比べて一般的に穏やかです。
  • 蒸留酒: ウイスキーやブランデーなど、木樽熟成を行う酒類では、樽材から溶け出すタンニンが渋みを付与します。熟成期間が長くなるにつれ、タンニン量が増え一旦渋みは増しますが、同時にタンニンが重合し分子量がおおきくなることで、渋みがまろやかさに変わる傾向です。

渋みの感じ方は、収斂性物質の種類や量、pH、アルコール度数、温度、個人の唾液の性質など、様々な要因によって変化します。適度な渋みは、酒の味わいに複雑さや奥行きを与え、後味を引き締める効果がありますが、過剰な渋みは不快感や粗雑さを感じさせることもあります。酒類における渋みは、品質を評価する上で重要な要素の一つと言えるでしょう。

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