ホップクリープ

ドライホッピングを行ったビールにおいて、主発酵が終了した後にも見られる継続的な発酵現象です。ビール発酵の最終比重が安定した後にも、ホップに含まれる特定の化合物が酵母の酵素によって分解され、グルコース等の新たな発酵性糖が発生し、アルコール発酵等様々な代謝を伴います。

関与酵素:グリコシダーゼ

ホップクリープの主な原因となるのは、酵母由来のグリコシダーゼという酵素群で、特に重要なのはβ-グルコシダーゼです。これらの酵素は、糖分子と非糖分子(アグリコン)が結合した配糖体(グリコシド)を加水分解します。酵母株毎にグリコシダーゼ活性は異なります。

ホップ由来配糖体(酵素基質)

ホップには様々な化合物が配糖体の状態で存在し、酵母はこれら配糖体を通常は代謝できません。配糖体の糖部分は通常グルコースで、テルペン類などの香り成分や、苦味成分の酸化物等がグルコースと結合しています。ドライホッピングで使用するホップの品種や量が配糖体の種類や供給量に関係します。

プロセス①:酵素による加水分解とアグリコンの遊離(バイオトランスフォーメーション)

酵母のβ-グルコシダーゼは、ホップ由来の配糖体の糖とアグリコンの間のグリコシド結合を加水分解によって切断し、グルコースが遊離します。同時に配糖体として結合していたテルペン類等のアグリコンが遊離することで、ビール香味が変化する可能性があります。特にテルペン類等の揮発性香気成分が遊離、さらに別の化合物に変換される一連の代謝はバイオトランスフォーメーションと呼ばれています。

プロセス②:再発酵およびダイアセチル生成

グルコースは酵母にとって新たな発酵基質となるため、発酵がほぼ終了したビール中であっても、残存している酵母がこのグルコースをエタノールと二酸化炭素に代謝します。この過程でダイアセチル(ジアセチル)(バター様のオフフレーバー)が酵母により再度産生され、酵母がストレス等により代謝しきれず、ビールに残存してしまう傾向が指摘されています。ダイアセチルの生成は、ホップクリープにおける最も注意すべき化学的変化の一つです。酵母株によってダイアセチル代謝能は異なります。

まとめ

ホップクリープは、酵母のグリコシダーゼによるホップ配糖体の加水分解という化学反応を起点とする代謝と言えます。これにより、発酵性糖の生成とそれに伴うアルコール度数の上昇、アロマプロファイルの変化、そしてダイアセチルの生成といった様々な化学的変化が引き起こされます。

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