醸造酒の硫黄系オフフレーバー発生概要

原料や製造方法の違いから、醸造酒(ビール、ワイン、日本酒等)では生成される副産物、特に硫黄系オフフレーバーの種類や生成経路に差異が見られます。硫黄化合物は、低濃度では風味に奥行きを与えることがありますが、高濃度になると腐った卵、ニンニク、茹で野菜等のオフフレーバーとして認識され、品質を損なう可能性があります。

主要な硫黄系オフフレーバー

  • 硫化水素(H₂S):腐った卵
  • 二酸化硫黄(SO₂):焦げたマッチ
  • ジメチルスルフィド(DMS):茹でたトウモロコシ、缶詰の野菜
  • ジメチルジスルフィド(DMDS):ニンニク、玉ねぎ、茹でたキャベツ
  • メチルメルカプタン(メタンチオール):ゴム、ニンニク、腐ったキャベツ

1.ビール発酵中の硫黄系化合物

  • 硫化水素(H₂S)
  • 酵母による硫酸塩の還元:麦汁に含まれる硫酸塩(SO₄²⁻)を酵母が代謝する過程で、硫化物が生成され、これが水素イオンと結合して硫化水素となる。この反応は、酵母株、麦汁の組成(硫酸塩濃度、資化性窒素源の組成)、発酵温度等の影響を受ける。
  • 酵母の自己消化(オートリシス):発酵後期や熟成中に酵母細胞が分解、硫黄を含むアミノ酸が放出され、これが硫化水素に変換される場合がある。
  • 二酸化硫黄(SO₂):一部の酵母株は、代謝の副産物として二酸化硫黄を生成する。
  • ジメチルスルフィド(DMS)
  • S-メチルメチオニン(SMM)の還元:麦芽に含まれるS-メチルメチオニンは、加熱によってDMSに分解される。麦汁煮沸中に大部分は揮発する。
  • ジメチルジスルフィド(DMDS):DMSが酸化されることで生成する。DMSよりも閾値は低い。

2.ワイン発酵中の硫黄系化合物

  • 硫化水素(H₂S)
  • 酵母による硫酸塩および亜硫酸塩の還元: 酵母は、ブドウ果汁に含まれる硫酸塩だけでなく、ワイン醸造で酸化防止剤として添加される亜硫酸塩(SO₂)も還元して硫化水素を生成する可能性がある。特に、資化性窒素不足下で特定の酵母株を使用した場合に生成され易い。
  • 二酸化硫黄(SO₂):ワイン醸造では、酸化防止や微生物制御目的で意図的に亜硫酸塩が添加される。高濃度の亜硫酸塩は、刺激臭としてオフフレーバーと認識されることもある。また、一部の酵母株は代謝産物として二酸化硫黄を産生する。

3.日本酒発酵中の硫黄系化合物

  • 硫化水素(H₂S)
  • 酵母による硫酸塩の還元:日本酒酵母も、醪に含まれる硫酸塩を還元して硫化水素を生成し得る。特定の日本酒酵母株は、硫化水素を多く生成する傾向があることが知られている。
  • 窒素不足:資化性窒素源の不足やアミノ酸組成の偏りによって硫化水素の生成が促進される場合がある。

まとめ

ビール、ワイン、日本酒の発酵中に生成される硫黄系オフフレーバーは、それぞれの飲料の原料や酵母、製造方法によって特徴的な様相を呈します。硫化水素や二酸化硫黄、ジメチルスルフィドなどは共通して見られるものの、その生成経路や影響を与える要因は若干異なります。

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