麦芽(麦汁)と焙煎大麦(麦茶)の成分差

麦茶のノンアルコールビールへの利用を目標に、麦芽(麦汁)と麦茶(焙煎大麦)の糖質以外の風味の違いについて化合物を含めて考察します。風味は多くの微量な化合物の組み合わせで構成され、僅かな差で変化が生じます。以下影響が大きいとされる化合物と風味について議論します。

1. 麦芽由来の風味(糖質以外の要素)

ビールの麦芽風味は、大麦の発芽(麦芽化)とキルニング(乾燥・焙燥)工程、さらに麦汁にする際の糖化(マッシング)工程で生成・抽出される成分に由来します。特にキルニングの温度と時間によって麦芽の風味は大きく変わります。

  • 穀物らしい風味、パン/ビスケット風味
  • キルニングの比較的低い温度帯で生成されます。
  • 化合物例:アルデヒド類(3-メチルブタナール等)、フラン類、少量のピラジン類などが関与。
  • トースト、ナッツ風味
  • キルニングの比較的高い温度帯でメイラード反応が進むことで生成されます。
  • 化合物例:さまざまな種類のピラジン類(アルキルピラジン等)。
  • カラメル、トフィー風味
  • キルニングで、麦芽内部のメイラード反応やカラメル化により生成されます。
  • 化合物例:フラノン類(例:マルトール – 焼いた砂糖や綿菓子様アロマ、シクロテン – メープルやカラメル様アロマ)、フランアルデヒド類(例:フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール – 甘い、カラメル様アロマ)、ラクトン類(例:ソトロン – 非常に低濃度でメイプルやカレー様アロマ、高濃度でオフフレーバー)。
  • チョコレート、コーヒー、ロースト風味
  • 非常に高い温度帯の焙燥・焙煎による強いメイラード反応や熱分解によって生成されます。
  • 例:高濃度のピラジン類ピロール類、特定のフラン類、一部の硫黄化合物
  • ボディ感、口当たり
  • デキストリン(非発酵性の多糖類)が主に寄与します。糖とは異なる「とろみ」や「コク」を与えます。
  • タンパク質やペプチドも口当たりに影響します。
  • 旨味、塩味
  • 糖化工程でタンパク質が分解されてできる遊離アミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸等)や小ペプチドが、わずかに旨味や塩味を感じさせることがあります。これらは酵母の栄養源にもなります。
  • 渋味
  • 麦芽の殻から抽出されるタンニン(ポリフェノール類)に由来します。特にマッシングやスパージングの条件によっては、過剰に抽出されて渋味や収斂味(口の中がキュッとする感じ)の要因になります。

2. 麦茶(焙煎大麦)の風味(糖質以外の要素)

麦茶の風味は、麦芽化していない大麦を高温で焙煎する工程で主に生成される成分に由来します。

  • 強い焙煎香、香ばしさ、ナッツ風味
  • 麦茶の最も特徴的な風味であり、高温焙煎によって大量に生成されるピラジン類がその主要な成分です。特にアルキルピラジン類が多く含まれ、これがナッツのような、または炒った穀物のような強い香ばしさを与えます。
  • 焦げた風味、苦味、色
  • 高温でのメイラード反応後期やカラメル化、炭化によって生成されるメラノイジン(複雑な高分子化合物)や、その他の熱分解生成物に由来します。メラノイジンは色だけでなく、焦げたような風味、コーヒーのような風味、あるいは苦味にも関与します。特定のフラン類ピロール類もこれらの風味に関わります。
  • 焙煎によって生成される苦味成分は、ホップの苦味(イソフムロン類)とは化学構造が異なります。
  • 微かな甘み、コク
  • メラノイジンの一部や、焙煎中にデンプンが熱分解して生成されるごく微量の還元糖類、または特定のフラン類などが、甘さとは異なるコクや微かな甘みとして感じられることがあります。
  • 土っぽい、スモーキーな風味
  • 原料の大麦や焙煎由来のピラジン類やフェノール類等の組み合わせによって、これらのニュアンスを感じられることがあります。

総括

麦芽の風味は、発芽と比較的制御された温度でのキルニングにより、デンプンの糖化産物(糖、デキストリン)を豊富に含み、それに加えてパン、ビスケット、カラメル、ナッツ、チョコレートといった幅広い風味(メイラード反応やカラメル化による多様な化合物)を持ちます。アミノ酸やペプチドも含まれます。

一方、麦茶の風味は、麦芽化されていない大麦の高温焙煎によって生成される強い焙煎香(ピラジン類)と、それに伴う苦味や焦げたニュアンス、そしてメラノイジンによる色が主成分です。糖化はほとんど行われないため、糖分やデキストリンは非常に少なく、酵素分解によるアミノ酸やペプチドのプロフィールも麦汁とは異なります。

このように、麦芽と麦茶は同じ大麦を原料としながらも、製造プロセスの違いにより、糖質以外の風味成分の種類やバランスが異なり、全く異なる風味特性を有しています。

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