濃厚なノンアルコールビール調整方法考察②(麦芽不使用/麦茶使用)

麦芽を全く使用せず、麦茶をベースとしたノンアルコール(アルコール度数1%未満)で麦芽、ホップ、酵母由来のフレーバーが強いビールテイスト飲料を家庭で再現する方法について考察します。

これは以前考察した「濃厚なノンアルコールビール調整方法考察①(麦芽/ホップ/発酵マシマシ)」の手法をベースに、麦芽の代わりに麦茶(焙煎大麦)と添加する糖類・マルトデキストリンで行う方法です。

基本理論

  • 抽出した麦茶をベースに、酵母がごくわずかなアルコールを作り出すのに必要な最小限の発酵性糖と、ボディを補うマルトデキストリンを添加します。
  • フレーバーを出すもしくはバイオトランスフォーメーションに特化した酵母を選び、アルコール度数が1%未満に収まるよう調整します。
  • 大量のホップを使用しつつ、苦味とアロマをノンアルコールビールに調和させます。

家庭での再現方法

  1. 高濃度麦茶ベースの準備
  • 焙煎大麦(麦茶パック)を使用し、通常飲用する麦茶よりも濃い麦茶を抽出します。
  1. 糖類・マルトデキストリンの添加
  • 抽出した濃い麦茶に、以下の原材料を添加します。
  • 発酵性糖(例:ブドウ糖(グルコース)、ショ糖(スクロース)):酵母が活動し、微量のアルコールと発酵風味を生成するための糖質です。最終的なアルコール度数が1%未満になるように、発酵性糖の添加量を調整しなければなりません。 例えば、目標アルコール度数を0.5%とするなら、発酵性糖の使用量はおよそ1%(w/v)未満に抑えます。
  • マルトデキストリン: 酵母がほとんど発酵しない多糖類で、飲料にボディ(コクや厚み)を与えます。麦芽を使用しないノンアルコール飲料では特に重要な成分です。麦茶だけではボディが不足するため、適量(例:20リットルあたり数百g)を添加します。量は好みに合わせて調整します。
  1. 煮沸
  • 糖類とマルトデキストリンを添加した麦茶ベース液を、短時間(15〜30分程度)煮沸します。
  • この煮沸の開始時にビタリングホップを少量加えます。ただし、麦茶由来の苦味もあるためバランスに注意が必要です。
  • 煮沸によって水の蒸発が生じるため、煮沸終了時までに発酵性糖の濃度が適切になるよう水を加え、調整します。
  • バイオトランスフォーメーションを利用する場合は、アロマホップを煮沸完了直後に投入します。
  1. 冷却
  • 煮沸後、液体を速やかに酵母の発酵温度帯まで冷却します。
  1. フレーバー生成酵母のピッチング
  • 特徴的な風味に寄与する酵母株を選択し、投入します。
  • エステル

LalBrew Windsor:イングリッシュエールに特徴的なエステル産生。

LalBrew Abbaye:ベルジャンエールに特徴的なエステル産生。

LalBrew Munich Classic:ヴァイツェンに特徴的なエステル産生。

LalBrew VOSS Kveik:ノルウェー起源酵母。オレンジ様アロマを期待。

  • バイオトランスフォーメーション

LalBrew BRY-97:WCIPA用途酵母。ホップ由来柑橘系アロマ(テルペン)のエンハンスを期待。

LalBrew New England:Hazy IPA用途酵母。ホップ由来柑橘系アロマ(テルペン)のエンハンスを期待。

LalBrew Verdant IPA:Hazy IPA用途酵母。ホップ由来トロピカルアロマ(チオール)のエンハンスを期待。

LalBrew Pomona:Hazy IPA用途酵母。ホップ由来トロピカルアロマ(チオール)のエンハンスを期待。ラクトン高産生により、チオールの更なるエンハンスも期待可。

  • 一部セゾン酵母のようなSTA1遺伝子を有するSaccharomyces cerevisiae var. diastaticusは、マルトデキストリンも資化し、エタノール(アルコール)に代謝するため使用できません。
  1. モニタリング
  • 設定した温度で発酵を開始させます。酵母が発酵性糖を利用し、微量のアルコールとフレーバーを産生し始めます。
  • 比重計や重量計を使い、定期的に液体の比重もしくは重量を測定し、発酵の進行を確認します。
  1. ドライホッピング(発酵中)
  • 発酵中にホップ(アロマ系品種)を投入することで、バイオトランスフォーメーションによるホップアロマの強化および複雑化を期待できます。
  • 今回はアルコール1%未満の発酵のため、発酵開始直後の投入が効果的です。これにより、煮沸では失われる揮発性のホップアロマを強く付与できます。
  1. 発酵停止
  • 比重が目標値に達し次第、液体全体を4℃程度の低温まで冷却します(コールドクラッシュ)。資化性糖質は必要量しか使用していませんが、酵母の活動を停止させます。
  1. ドライホッピング(発酵後)
  • バイオトランスフォーメーションは期待できませんが、揮発性ホップアロマ成分(遊離型テルペンやチオール)を効果的に付与できます。
  1. 酵母およびホップ分離と清澄化
  • 低温で酵母を沈殿させ、静かに液体を別の容器に移します。必要に応じてメッシュ等でのろ過を実施します。
  1. 炭酸ガス添加
  • 完成した液体に強制的に炭酸ガスを注入し、ビールらしい発泡性を付与します。炭酸レベルは好みに応じて調整します。
  1. 低温殺菌(パスチャライゼーション)
  • ボトリング直前の液体もしくはボトリング後のボトルに対し、パスチャライゼーションすることで品質は安定しますが、風味への影響は大きいと考えられます。

重要点

  • 風味のバランス:麦茶のロースト風味、添加した糖類、酵母の発酵風味、ホップ風味、そしてマルトデキストリンによるボディのバランス調整が鍵になります。特に、発酵が限定的なため、酵母が関与する風味を十分に表現できない可能性があります。
  • 低アルコール度数:アルコール自体が飲料の風味に寄与し、また、アルコール度数が低ければテルペン等の非極性分子の溶解度も低くなります。ドライホップを効果的に利用するためには、乳化剤の使用も視野にいれる必要があるかもしれません。

麦芽の代わりに麦茶を大麦風味のベースとする方法は、一般的なビール醸造の枠からは外れますが、「焙煎大麦の風味を持つノンアルコール発酵飲料」へのアプローチの一つと考えられます。

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