ノンアルコールビールの酵母を利用したボトルコンディション(瓶内二次発酵、またはナチュラルカーボネーションとも呼ばれます)は、炭酸ガスボンベを使わずに自然な泡立ちと、酵母由来の微妙な風味を付与する伝統的な方法です。シャンパーニュ等のスパークリングワインでは現在でも積極的に利用されています。
ただし、ノンアルコールビール(アルコール度数1%未満)の場合、通常のビールに比べて以下の点で注意と工夫が必要です。
- 残糖が多い傾向:製造過程で糖化が十分でない、または発酵を途中で止める手法を選択する傾向のため、酵母が資化可能な糖質が残っている場合があります。これがボトルコンディションの際に過剰な発酵を促進し、瓶の破裂や泡の噴き出しの原因になります。
- 低いアルコール濃度:アルコール自体が微生物の増殖を抑制する効果がありますが、ノンアルコールビールではその効果が期待できません。そのため、雑菌汚染によるオフフレーバーのリスクが高まります。
ボトルコンディション/ナチュラルカーボネーションの基本原理
一次発酵を終えたノンアルコールビールを瓶詰めする際に、必要最小量のプライミングシュガー(補糖)と、二次発酵用途の酵母を入れます。瓶内でこれらの糖分が酵母によって再発酵され、その際に発生する二酸化炭素(CO2)が液体に溶け込み、炭酸となります。嫌気条件のため、エタノール(アルコール)も発生します。
ボトルコンディションの方法と手順
用意するもの
- 一次発酵を終えたノンアルコールビール
- プライミングシュガーとして使用する糖類(ショ糖やブドウ糖等)
- 清潔な耐圧ボトル
- 正確な重量計(デジタルキッチンスケール等)
手順
- ボトルコンディションに向けたノンアルコールビールの準備
- ノンアルコールビール中に沈殿した一次発酵に利用された酵母は、ボトルコンディションに向けて可能な限り取り除きます。コールドクラッシュ(低温環境下で酵母や濁り成分を沈殿させる)を利用すると、よりクリーンな仕上がりを期待できます。
- プライミングシュガーの調整
- ボトルコンディションの重要管理点です。プライミングシュガーの量が過剰な場合は瓶が破裂する危険があります。
- 調整目安:ノンアルコールビールに対して、グラニュー糖やブドウ糖を5g/L程度(発生CO2量2.2g/L程度。上昇アルコール度数0.23%程度)から始めるのが安全です。
- 注意点:使用する酵母の特性や、ノンアルコールビール自体の残糖量によって調整が必要です。少量から始め、試行錯誤が必要です。
- 溶解と殺菌:計算した量のプライミングシュガーを少量の水に溶かし、沸騰させ、殺菌させます。その後、常温程度まで冷まします。
- プライミングシュガーの添加
- 冷ましたプライミングシュガー溶液を、ノンアルコールビールに添加します。この際、空気の巻き込みを最小限に抑えつつ、均一に混ざるようにゆっくりと混和します。
- 酵母を追加する場合:ボトルコンディション専用酵母(例:LalBrew CBC-1)やワイン瓶内二次発酵用酵母(例:Lalvin EC1118)を使用することで、より確実なボトルコンディションを期待できます。プライミングシュガー添加前後のノンアルコールビールに添加します。
- 瓶詰め
- 清潔な瓶に、プライミングシュガーを混和させたノンアルコールビールを詰めます。
- 確実に王冠やスクリューキャップ等で閉栓します。
- ボトルコンディション(瓶内二次発酵)
- 瓶詰めしたノンアルコールビールを、酵母が活動できる比較的暖かい場所(20〜25℃)で管理します。
- 期間:通常は1週間〜3週間程度で十分な炭酸が生成されます。
- 確認方法:ペットボトルの場合はその硬さで炭酸の進行具合を確認するという方法もあります(ペットボトルが硬くなれば炭酸が発生しています)。
- 過発酵のリスク:ノンアルコールビールの残糖量が多い場合は特に注意が必要です。期間中は頻繁にチェックし、もし過剰な膨張や異音(瓶にひびが入るような音)が確認された場合は、即座に冷却し、必要であれば安全にガスを抜きます。
- 冷却と安定化
- ボトルコンディションを経て、瓶を冷却(コールドクラッシュ)し、酵母の活動を停止させます。
リスクと課題
- 瓶の破裂:最も大きなリスクです。プライミングシュガーの計算ミスや、一次発酵の設計や管理が不適切な場合、過剰なCO2により瓶が破裂することがあります。
- 不安定な品質:残存する微生物や不十分な殺菌により、オフフレーバー(酸っぱい等)が発生したり、時間の経過と共に再発酵が進んで品質が変化する可能性があります。
ノンアルコールビールのボトルコンディションは、通常のビールよりも品質面で難易度が高いですが、奏功すれば独特の炭酸感と酵母由来の複雑な風味を楽しめます。