麦芽や大麦を使わず、砂糖、ホップ、マルトデキストリンだけで0.5%ABVのIPA風ビールテイスト飲料の醸造レシピを提案します。
このレシピのポイントは、「使用糖分量を制限することでアルコール度数を1%未満に厳密に調整する」、「酵母が資化できないマルトデキストリンでボディを補う」、「IPAの様にホップの香りと苦味を最大限引き出す」です。
砂糖とホップ、マルトデキストリンで作るABV0.5%のIPA風ビールテイスト飲料(2.5L用)
レシピ概要
- 目標アルコール度数 (ABV):0.5~1.0%
- 発酵容量:2.5リットル
- ビアスタイル:IPA(ホップの香りと苦味を強調)
- 発酵方法:酵母による限定的な発酵(+ボトルコンディション)
材料
- 水:2.5リットル程度(浄水器を通した水または市販のミネラルウォーター)
- 砂糖(ブドウ糖等):主発酵用 25g程度。ボトルコンディション用10g程度。
- 重要:この量がABV0.5%に抑える鍵です。後述の計算を参照。
- マルトデキストリン:50g
- ビールにボディを与えます。酵母は代謝できません。
- ホップ
- ビタリングホップ:3〜5g(例:Magnum、Centennial等のビタリングホップ)
- アロマホップ:10〜15g(例:Citra、Mosaic、Simcoe、Nelson Sauvin等の柑橘系・トロピカル系アロマホップ)
- ワールプールホップやドライホップで使用します。
- ビール酵母:管理が用意なドライイーストを推奨します。
- 主発酵用:1〜2g/L(例:LalBrew BRY-97、LalBrew Verdant IPA、SafAle US-05等、クリーンでフルーティーなエステルをあまり出さず、バイオトランス能が高い菌株を推奨します。)
- ボトルコンディション用:0.1〜0.2g/L(例:LalBrew CBC-1等、クリーンなフレーバーかつキラー性を有する菌株を推奨します。)
必要な器具(理想)
- 5リットル以上の容量の鍋
- お茶用メッシュバッグ(使用済みホップ回収の手間が省けます)
- 発酵容器(2.5L以上の容量で、エアロックを取り付けられるもの)
- エアロック、ゴム栓
- デジタルスケール(グラム単位で計量可能)
- 正確な温度計
- サイフォンチューブ
- 煮沸消毒済みのボトル(炭酸飲料用の厚手のガラス瓶など、圧力に耐えられるもの)
- 殺菌用アルコール(食品用)
- pHメーターまたはpH試験紙
手順
1. ベース液の準備
- 水の準備:鍋に2.5リットルの水を入れます。
- 溶解:水を沸騰させ、火を止めてから、砂糖25gとマルトデキストリン50gを加えて、完全に溶けるまでよくかき混ぜます。
- 砂糖の量に関する計算
- ブドウ糖(使用酵母が資化可能な糖類)は、1gあたり約0.465gのエタノールを生成します。
- エタノールの比重は約0.79です。
- 目的のABV0.5%を2.5Lで達成するために必要なエタノール量は、2.5L × 0.005 = 0.0125L = 12.5mlです。
- これを重量にすると、12.5ml × 0.79g/ml = 9.875gのエタノールが必要です。
- 必要な砂糖の量 = 9.875g(エタノール) / 0.465(エタノール生成率) ≈ 21.2g
- 酵母の発酵度(attenuation)を考慮し、約25g(仮に100%エタノールに代謝された場合はABV0.59%)の使用量を提案します。
- ビタリングホップの添加:再び鍋を火にかけ、沸騰させます。沸騰したらメッシュバッグに入れたビタリングホップ3〜5gを投入し、15分間煮沸します。この段階で、砂糖とマルトデキストリンの溶液を殺菌し、ホップから苦味を引き出します。
- ワールプールホップの添加:メッシュバッグに入れたアロマホップ3~5gを煮沸完了直後に添加します。
- 冷却:15分間の煮沸後、鍋を火から下ろし、速やかに液体を冷却します。シンクに氷水を入れて鍋を浸すなどして、酵母を投入する温度(例: 20℃前後)まで冷却します。
2. 発酵
- 発酵容器への移し替え:冷却したベース液を、事前に殺菌しておいた発酵容器に移します。
- 酵母の投入(ピッチング)
- ベース液の温度が適切であることを確認します(約20℃(使用酵母による))。
- 酵母を直接投入します。
- エアロックの取り付け:エアロックを装着し、CO2の逃げ道を確保します。
- 発酵管理
- 発酵容器を室温(20℃前後)に置き、発酵を開始させます。
- 発酵の進行を観察します。 数時間から半日で発酵が始まるはずです。エアロックから出るCO2の泡を確認します。
- 使用糖分量が制限され、目標ABVも0.5%程度と低いため、精密な比重計算は不要と考えられます。
- エアロックの泡の出方が弱まるのを目安にするか、可能であれば総重量を測定し、発酵工程の終了を判断します。理論上、発生CO2分13g程度重量が減少します。
3. 発酵の停止(コールドクラッシュ)
- 冷却:発酵容器を冷蔵庫に入れるなどして、速やかに0〜4℃程度に冷却します。 これにより、酵母の活動が停止し、それ以上の発酵や混入微生物による腐敗を抑えられます。
- コールドクラッシュ期間:冷却状態で2〜3日置くことで、酵母やその他の浮遊物が沈殿し、液体がクリアになります。
4. ホップ添加(ドライホップ)
アルコール度数が低いため、ホップが清潔な状態を保ったまま使用するよう心がけます。微生物汚染のリスクを考慮し、ドライホップをスキップすることも賢明かもしれません。
- ドライホップの投入:コールドクラッシュが完了したら、メッシュバッグに入れたアロマホップ10〜15gを発酵容器に投入します。
- 抽出:容器ごと冷蔵庫内で3〜5日間管理し、ホップアロマを抽出します。
5. ボトルコンディション(瓶内二次発酵)
- プライミングシュガーの計算
- IPAテイストでABV0.5%程度なので、比較的低めの炭酸レベル(ガスボリューム1.5〜2.0 vol.程度)を目指します。
- 1リットルあたり約 3g〜4g のブドウ糖(グラニュー糖等でも可)を目安に計算します。2.5Lなので、2.5L × (3g〜4g) = 7.5g〜10g が目安です。
- 上記量のプライミングにより0.17~0.23%程度アルコール度数が上昇しますので、ベースビールのアルコール度数と合わせて1%を超えないように調整します。
- 計算したプライミングシュガーを少量の水(約50ml)に溶かし、数分間煮沸して殺菌することで望まない微生物による腐敗リスクを軽減できます。
- 移し替えと糖の混合
- 消毒した容器(2.5L以上)に、冷ましておいたプライミングシュガー溶液を入れます。
- ドライホップ中のビールを、静かにサイフォンでこの容器に移し替えます。この際、底の澱やホップのカスを吸い込まないように注意します。
- ボトルコンディション用のイーストを使用する場合はこのタイミングで投入します。
- 液体が均一に混ざるように、軽くかき混ぜます。
- ビールの酸化を避けるため、この工程を省略し、瓶内で砂糖とビールを混合する方が高品質に仕上がる可能性もあります。
- 瓶詰め
- 清潔で殺菌済みの瓶(圧力に耐えられるもの)にビールを詰め、閉栓します。
- パスチャライゼーションする場合は、ヘッドスペースを確保します。
- 瓶内二次発酵:瓶詰めしたビールを20℃程度の場所で管理し、約1〜3週間二次発酵させます。これにより炭酸が生成されます。
非常に重要:過発酵による破裂に厳重に注意してください。瓶の様子をこまめに確認し、もし異変(吹き溢れ等)があれば、すぐに冷蔵庫に移すなどして冷却し、発酵を止めてください。
- 冷却と安定化:瓶ごと冷蔵庫に移し、冷却します(数日以上)。これにより炭酸が液体にしっかり溶け込み、酵母の活動も停止し、クリアになります。
6. パスチャライゼーション(低温殺菌)
ボトルコンディション後はすぐに引用することを推奨しますが、パスチャライゼーションすることで、長期間冷蔵保管した場合の食中毒リスクを軽減できます。
- 殺菌:瓶が完全に収まる大きさの鍋内に瓶詰めしたビールを収納し、液体部分が完全に浸かる程度まで水を満たし、60~65℃まで加熱し、15~20分間キープします。
- 冷却:瓶を鍋から出し、室温で冷却した後、冷蔵庫に移します。
IPA品質を向上させるポイント
- ホップアロマ:品種、量、投入タイミングの組み合わせでアロマ品質の向上を狙います。一方、アロマ主成分であるテルペン類やチオール類は低アルコール度数液体には溶解しにくく、ホップ量を増やしてもビールに残存しにくいと考えられます。チオール類の官能閾値は他の香気成分と比較し低いため、こちらを主体として設計する必要があるかもしれません。
- ボディ:マルトデキストリン、乳糖、難消化性デキストリン、特殊な酵母エキス(LalBrew ISY Enhance)の組み合わせによって、さらにボディや口当たり(マウスフィール)の品質向上を狙います。
- 酵母選択:酵母由来のアロマ成分(エステル、ラクトン等)やバイオトランスフォーメーションによって、アロマの強化や複雑化を狙います。
麦芽を使わずホップを最大限表現するIPA風ノンアルコールビールの醸造にぜひ挑戦してみてください!