米麹に使用される麹菌とその酵素

米麹は、日本の伝統的な発酵食品に不可欠な存在であり、その機能の核心は麹菌が産生する多種多様な酵素にあります。これらの酵素が、米(または大豆、麦等)の複雑な栄養素をより単純な化合物に分解し、発酵食品の風味、栄養価、消化性を高めます。

米麹に使用される主な麹菌株

米麹に主に利用されるのは、黄麹菌(Aspergillus oryzae)です。これは「国菌」とも呼ばれる日本の代表的な麹菌で、以下の発酵食品に用いられます。

  • 清酒(日本酒)
  • 味噌
  • 醤油
  • 甘酒
  • みりん

他にも用途に応じて以下のような麹菌が使われることがあります。

  • 白麹菌(Aspergillus kawachii):主に焼酎の製造に用いられ、クエン酸を多量に生成するのが特徴です。
  • 黒麹菌(Aspergillus luchuensis):主に泡盛の製造に用いられ、クエン酸を生成する点で白麹菌と似ています。

麹菌によって産生される主な酵素とその役割

麹菌は、100種類以上もの酵素を産生すると言われています。その中でも、特に発酵食品の製造において重要な役割を果たす主要な酵素は以下の通りです。

1. アミラーゼ(Amylase)

デンプンを糖へと分解する酵素の総称です。

主要な種類

  • α-アミラーゼ:デンプン分子の内部をランダムに切断し、デキストリンやオリゴ糖を生成します。これはデンプンの液化を促進し、次の糖化工程への準備を整える役割があります。
  • グルコアミラーゼ(アミログルコシダーゼ):デンプン鎖の末端からブドウ糖(グルコース)を次々と切り出す酵素です。これが甘酒の甘みの主要な源となり、日本酒や味噌、醤油の発酵において酵母が利用する糖(アルコール発酵の原料)を供給します。
  • 発酵食品中での役割
  • 甘味の生成:甘酒の「飲む点滴」と言われるゆえんのブドウ糖を生成します。
  • アルコール発酵の基質供給:日本酒や焼酎の醸造において、酵母がアルコールを産生するための糖分を供給します。

2. プロテアーゼ(Protease)

タンパク質をアミノ酸やペプチドへと分解する酵素の総称です。

  • 主要な種類:麹菌は、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼなど、様々なpH域で働くプロテアーゼを産生します。
  • 発酵食品中での役割
  • うま味の生成:タンパク質を分解してアミノ酸(特に遊離アミノ酸)を生成します。これが味噌や醤油の深い「うま味」の主要な成分となります。
  • 消化性の向上:食品中のタンパク質が分解されることで、消化吸収されやすい形に変化します。
  • 食品の軟化:肉や魚などを麹に漬け込むことで柔らかくなるのは、プロテアーゼの作用によるものです。
  • 発酵の栄養源:酵母や乳酸菌などの微生物は、タンパク質分解によって生じたアミノ酸を増殖のための窒素源として利用します。

3. リパーゼ(Lipase)

脂質を脂肪酸とグリセリンに分解する酵素です。

  • 発酵食品中での役割
  • 風味への影響:米や大豆に含まれる微量の脂質を分解し、脂肪酸を生成します。これらの脂肪酸は、発酵過程でエステルなどの香気成分の前駆体となることがあり、風味形成に寄与します。
  • 消化性の向上:脂質の消化吸収を助けます。

その他の酵素(特定の麹菌や用途で重要)

  • セルラーゼ(Cellulase):セルロース(植物の細胞壁の主成分である繊維質)を分解する酵素です。一部の麹菌(特に黒麹菌や白麹菌)はセルラーゼを産生し、原料の効率的な利用や、特定の風味形成に寄与します。
  • ヘミセルラーゼ(Hemicellulase):ヘミセルロース(植物の細胞壁に含まれる多糖類)を分解する酵素です。
  • ペクチナーゼ(Pectinase):ペクチン(植物の細胞壁に含まれる多糖類)を分解する酵素です。果実の発酵などに関与する場合があります。

酵素の相乗効果

米麹が有するこれらの酵素は、それぞれが独立ではなく複合的に働くことで、穀物を複雑かつ効率的に分解し、風味形成等に寄与しています。例えば日本酒の場合は、アミラーゼによって生成された糖が酵母のアルコール発酵に利用され、プロテアーゼによって生成されたアミノ酸が日本酒の旨味に関与します。

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