サワービールの歴史は、ビール醸造の起源と深く結びついています。冷蔵技術や衛生管理が未発達だった時代、麦汁は自然界の乳酸菌や野生酵母の影響を受け、自然発酵によって酸味を持つビールが一般的でした。つまり、古代のビールの多くは、現代のサワービールに似た特徴を備えていたと考えられます。
特にベルギーでは、ランビックやグーズといった伝統的なサワービールが生まれました。これらは特定の地域でのみ自然発酵させるスタイルで、ブレタノマイセス酵母や乳酸菌が独特の酸味や複雑な風味を生み出します。ランビックは長期間熟成され、異なる熟成期間のビールをブレンドしたものがグーズと呼ばれます。この製法は現在も受け継がれています。
ドイツでも16世紀頃にはベルリーナ・ヴァイセが誕生し、爽やかな酸味と低アルコールの軽快な飲み口で人気を集めました。18世紀にはナポレオン軍の兵士たちがこれを「北のシャンパン」と称したことでも知られています。また、同じくドイツのゴーゼは塩やコリアンダーを使用した独特の味わいを持ち、伝統的なサワービールの一つとして知られています。
19世紀から20世紀にかけて、ビールの産業化が進み、ラガービールの普及とともに酸味のあるビールは次第に市場から姿を消していきました。しかし、21世紀に入るとクラフトビールブームの影響で、伝統的なサワービールが再評価されるようになりました。アメリカを中心に、新しい乳酸菌や乳酸産生酵母が開発され、フルーツを加えたケトルサワーやサワーIPAなどのスタイルが生まれ、現代のサワービールは多様な味わいを楽しめるビールとして人気を集めています。
ケトルサワーは、麦汁を煮沸する前に乳酸菌を添加し、酸味を付与する手法で、伝統的な製法よりも短期間で安定した酸味を持つビールを生産できます。この方法により、醸造設備の汚染リスクを低減し、多くのブルワリーがサワービールの生産に取り組むようになりました。
このように、サワービールは古代から現代に至るまで、その製法やスタイルを進化させ、トレンドや技術を頼りに多様に進化してきました。