一般的にアルコール度数が高くなるほど、疎水性の化合物はビールに溶け込みやすくなります。これは、アルコール(エタノール)が水よりも疎水性(非極性)の性質を持つため、ビール全体の溶媒としての性質が変化することに起因します。
水は極性溶媒であり、親水性の物質(塩や糖など)をよく溶かしますが、疎水性の物質(油や脂肪など)は溶けにくい性質を持ちます。一方、エタノールは水よりも非極性度が高いため、疎水性の化合物も水よりは溶けやすくなります。
ビールにおいて、疎水性の化合物は、主に以下のものがあげられます。
- ホップ苦味成分: ホップの苦味成分であるα酸が異性化して生成されるイソα酸もまた、疎水性を持っています。アルコールはイソα酸の溶解度を高め、ビールにしっかりとした苦味と、後味のキレの良さをもたらします。アルコール度数の高いIPAなどで、ホップの苦味が際立っているのは、アルコールの溶解性向上が一因と言えるでしょう。
- ホップ精油成分: ホップ精油は、ビールの香りにおいて非常に重要な役割を果たしており、フムレン、ミルセン、カリオフィレンなどのテルペン類が主要な成分です。これらの成分は疎水性が高く、アルコール度数が高まることでビールへの溶解度が増加します。これにより、高アルコール度のビールでは、ホップ由来のフローラル、シトラス、ハーバルな香りを表現可能になります。
- 麦芽や副原料由来の疎水性成分: 麦芽を焙煎する過程で生まれるアルデヒドやピラジンといった香気成分も疎水性です。これらは、カラメル、トースト、ナッツ、チョコレート、コーヒーのような複雑な風味をビールに付与します。
アルコール度数が高いビールは、エタノールの割合が増えるため、全体として疎水性の物質を溶かし込む能力が向上します。結果として、疎水性の香気成分や苦味成分がより多くビール中に存在しやすくなり、風味の複雑さや濃さ、香りの強さに影響を与えることになります。
例として、アルコール度数が高い インペリアルスタウト、バーレイワイン、DIPA などのビアスタイルは、ロースト麦芽由来の香ばしい香りや、ホップ由来の複雑な香りが濃厚に感じられる傾向があります。これらのビールは、アルコール自体が疎水性化合物の溶解度を高めることで、より豊かな風味体験をもたらしていると考えられます。
ただし、溶解度はアルコール度数だけでなく、温度、pH、他の成分との相互作用など、様々な要因によって複雑に変化します。あくまでアルコール度数は一つの要因として捉える必要があります。