麦芽や穀物由来のタンニンとポリフェノール

麦芽由来のタンニンとポリフェノール

ビール醸造において、麦芽はポリフェノールの主要な供給源です。大麦粒にはもともとポリフェノールが含まれており、麦芽化の過程でその種類と量に変化が生じます。

  • フェノール酸: 大麦に元から存在するポリフェノールで、フェルラ酸、カフェ酸(3,4-ジヒドロキシ桂皮酸)などが代表的です。これらは麦芽化によって遊離し、後の醸造工程で様々な反応に関与します。特にフェルラ酸は、ビール酵母の働きでバニリン酸や4-ビニルグアイアコール(クローブ様の香り成分)に変化することが知られています。
  • フラボノイド: カテキン、プロアントシアニジン(プロシアニジン)などのフラボノイドも麦芽に由来します。特にプロアントシアニジンは、重合度によって溶解性やタンパク質との結合能が異なり、ビールの濁り(コールドヘイズ)や渋味に深く関わります。麦芽の焙煎度が高くなると、これらのフラボノイドは熱分解や重合を起こし、色の濃い麦芽ほどポリフェノール組成が変化します。

焙煎麦芽、特に色の濃い麦芽(ロースト麦芽、チョコレート麦芽など)は、メイラード反応やカラメル化反応だけでなく、ポリフェノールの熱分解や重合も進行しています。これにより、色の濃い麦芽は、ベース麦芽とは異なる種類のポリフェノールを多く含み、これがビールに独特の色、風味、そして渋味を与える要因となります。

穀物(副原料)由来のタンニンとポリフェノール

麦芽以外に、ビールに使用される米、コーン、小麦、ライ麦、オーツ麦などの穀物(副原料)もポリフェノールを含んでいます。これらの副原料のポリフェノール組成は、麦芽とは異なり、ビールに独特の風味特性をもたらす可能性があります。

  • 小麦: 小麦麦芽や未麦芽小麦は、フェルラ酸を多く含み、ヴァイツェン酵母と組み合わせることで、特徴的なクローブ様の香りを強く生成します。また、小麦由来のポリフェノールは、ビールにソフトな口当たりや濁りを与えることにも寄与します。
  • 米、コーン: 米やコーンは、他の穀物に比べてポリフェノール含有量が比較的少ないとされます。これらは、ビールに軽快さやドライな後味を与える目的で使用されることが多く、ポリフェノールによる影響は麦芽に比べると小さいと考えられます。
  • ライ麦、オーツ麦: ライ麦やオーツ麦は、独特の風味や口当たりに加え、ポリフェノールもビールに複雑さを与える可能性があります。特にオーツ麦は、βグルカンなどの多糖類とともに、ポリフェノールがクリーミーな質感に影響を与えると考えられています。

タンニンとポリフェノールのビールへの影響

麦芽や穀物に由来するタンニンやポリフェノールは、ビールの色、風味、口当たり、保存安定性など、多岐にわたる品質に影響を与えます。

  • : ポリフェノールは、酸化や重合反応により、ビールの色を濃くする要因となります。特に焙煎麦芽由来のポリフェノールは、濃色ビールの色調に大きく寄与します。
  • 風味: ポリフェノール自体は、直接的な味や香りを持たないものが多いですが、他の成分との相互作用や反応によって、ビールの風味に複雑さを与えます。適度なポリフェノールは、ビールに奥行きやボディ感、スパイシーさをもたらすことがあります。
  • 渋味: 特に重合度の高いタンニン(プロアントシアニジンなど)は、唾液中のタンパク質と結合し、収斂性(渋味)を引き起こします。適度な渋味は、ビールの味わいを引き締め、場合によっては後味をドライに感じさせる効果があるとされていますが、過剰な渋味はビールを飲みにくくする要因となります。
  • 濁り: ポリフェノールは、タンパク質と結合しやすく、分散性を有する複合体(コロイド等)を形成し、これがビールの濁りの要因となります。この複合体は、低温等の条件下によっては滓(おり)として沈殿することがあります。
  • 抗酸化性: 一方で、ポリフェノールは抗酸化作用を持ち、ビールの酸化劣化を防ぎ、風味の変化を抑制する効果も期待できます。

醸造におけるポリフェノール制御

ビール醸造においては、麦芽や穀物の選択、マッシング、麦汁ろ過、煮沸、発酵、熟成といった各工程で、ポリフェノールの抽出量や組成を制御することが可能です。例えば、マッシング温度やpH、麦汁ろ過の方法、ホップの添加方法、 clarification(清澄)処理などによって、ビール中のポリフェノール量を調整し、意図するビールスタイルに合わせた風味バランスを目指します。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール