ビールは、麦芽を主原料とし、酵母を用いて発酵させる醸造酒であり、そのアルコール度数は、他の酒類と比較して比較的低い範囲に収まる傾向があります。しかし、多様な風味の追求のため、アルコール度数が高いビールが醸造されることもあります。ここでは、醸造酒としてのビールのアルコール度数の上限について議論します。
生物学的限界
ビールのアルコール度数の上限を考える上で、最も重要な要素は酵母のアルコール耐性です。ビール酵母には糖分をアルコールと炭酸ガスに変換する能力がありますが、生成されたアルコール自体が酵母にとって有毒であり、一定以上の濃度になると酵母の活動を阻害し、最終的には死滅させてしまいます。したがって、ビール酵母のアルコール耐性限界のため、アルコール度数20%ABV(Alcohol by Volume)を超える発酵は困難とされています。高濃度アルコールによる酵母細胞膜の破壊や、細胞内酵素活性の阻害が原因として考えられます。
技術的限界
アルコール度数を高めるためには、以下の様な技術的な課題があります。
- 高比重麦汁: アルコール度数を高めるためには、発酵させる麦汁中の糖濃度を高める必要があります。しかし、高濃度の糖分は酵母に浸透圧ストレスを与え、健全な発酵を阻害する可能性があります。高比重状態を回避するため、発酵の途中で段階的に糖分を追加する手法もあります。
- 発酵環境の最適化: 発酵温度、酸素供給量、栄養素の追加など、発酵環境の最適化が求められます。また、高アルコール度数ビールでは発酵に長期間要する傾向にあります。
定義的限界
ビールは醸造酒のため、原則として蒸留は行われず、蒸留酒を混和されることもありません。蒸留を行うと、ウィスキー等の蒸留酒に分類されるからです。 しかし、例外的に、アイスボックのように、ビールを冷却して凍らせ、氷を取り除くことでアルコールを濃縮させるフリーズコンセントレーション(凍結濃縮)という手法があります。フリーズコンセントレーションは、アルコールだけでなく風味成分も濃縮するため、仕上がりビールのバランスを見通す知見が必要とされます。
まとめ
以上の制約により、酵母発酵のみで達成できるアルコール度数の上限は、20%ABV程度が現実的なラインと言えるでしょう。単にアルコール度数が高いビールは、アルコールの刺激を強く感じ、飲用性(ドリンカビリティ)は下がります。類い希な風味の調和のため、多様な原料や製法を駆使が求められます。