アイスボックは、その名の通り「氷(Eis)」と「ボック(Bock)」を組み合わせたビールスタイルで、特有の凍結濃縮という製法によって、アルコール度数と風味を通常のボックビールよりも高めた、非常に濃厚で力強いビールです。
ビアスタイルの特徴
- ハイアルコール: 6%~15% ABV程度、中には20% ABVを超えるものも存在します。通常のラガービールよりもはるかに高いアルコール度数です。
- 濃厚な風味: 麦芽由来の甘味やコク等の風味が凝縮され、リッチな味わいです。カラメル、トフィー、ドライフルーツ、パンのような風味が感じられることが多いです。
- 長期熟成: アルコール度数が高く、濃厚な味わいを持つアイスボックは、長期熟成にも向いています。熟成によって風味の複雑化を期待できます。
製造方法
1.ベースビール(ボックビール)の醸造
通常のボックビールを醸造することから始まります。 ボックビールは、ドイツ発祥のラガービールの一種で、麦芽の風味豊かで、アルコール度数がやや高めなのが特徴です。
- 麦芽: 一般的に、ベース麦芽にはミュンヘン麦芽やウィーン麦芽など、色合いが濃く、麦芽の風味が豊かな麦芽が使用されます。これにより、アイスボックの濃厚な麦芽風味の基礎が作られます。色の濃いカラメル麦芽やロースト麦芽を少量加えることもあります。
- ホップ: ホップは、ドイツ産のノーブルホップ(ザーツ、ハラタウトラディションなど)が伝統的に使用されます。ホップの役割は、苦味と香りをビールに与えることですが、アイスボックにおいては、麦芽の風味を邪魔しないよう、控えめな使用量が一般的です。
- 酵母: ラガー酵母(Saccharomyces pastorianus)が選択されます。
- 仕込み: 麦汁の初期比重(濃度)は、通常のボックビールよりもやや高めに設定されることが多いです。これは、凍結濃縮によってさらにアルコール度数を高めることを考慮しているためです。
- 発酵・熟成: 低温で時間をかけて発酵を行い、その後、低温で長期間熟成させることでまずはベースビールの風味を落ち着かせます。この熟成期間は、アイスボックの品質を左右する重要な工程です。
2.凍結濃縮(フリーズコンセントレーション)
アイスボック製造の核心となるのが、凍結濃縮の工程です。これは、醸造したボックビールを冷却し、水分を氷として分離・除去することで、アルコールや風味成分を濃縮する技術です。
- 冷却: 熟成を終えたボックビールを、0℃以下の温度まで冷却します。設備等によって異なりますが、-5℃から-15℃程度の範囲で行われます。
- 氷の生成: ビールを冷却していくと、まず水分が氷の結晶として析出し始めます。アルコールは水よりも凝固点が低いため、氷にはほとんど含まれず、液体部分に濃縮されます。
- 氷の分離・除去: 生成した氷を、液体部分から分離・除去します。この工程が、アイスボック製造の核と言えます。 氷を除去することで、ビールの体積は減少し、結果として残った液体部分には、アルコール、麦芽エキス、ホップ成分、酵母の代謝物等が濃縮されます。これがアイスボックの濃厚な風味と高いアルコール度数の要因です。
凍結濃縮の繰り返し(オプション): さらなる高アルコール度数や、より濃厚な風味を追求する場合は、凍結濃縮の工程を複数回繰り返すことがあります。