ビールの苦味

ビールの苦味は、主にホップに含まれる特定の化合物に由来し、様々な工程を経て化学的に変化し、最終的に味覚で認識されます。

1.苦味の源:ホップのアルファ酸

ビールの苦味の主要な源泉は、ホップに含まれるアルファ酸(α酸/α-acids)と呼ばれる一群の化合物です。代表的なアルファ酸には、フムロン(humulone)コフムロン(cohumulone) 等があります。これらの化合物は、ホップの雌花の腺(ルプリン腺)に多く含まれており、独特の環状ケトン構造を持っています。アルファ酸自体は、水に溶けにくく、そのままではビールに強い苦味を与えるわけではありません。

2.煮沸による異性化:イソアルファ酸の生成

アルファ酸が苦味成分として機能するためには、煮沸工程での異性化という化学反応が不可欠です。麦汁を煮沸する際、アルファ酸は熱により分子構造が変化し、イソアルファ酸(イソα酸/iso-α-acids)と呼ばれる化合物に変換されます。イソアルファ酸には、シス体とトランス体の異性体が存在します。

  • 異性化:麦汁の煮沸によって、アルファ酸の六員環構造が開き、五員環構造に再配置されることでイソアルファ酸になります。この反応は、アルファ酸のイソプレノイド側鎖の異性化を伴います。
  • 溶解性と苦味の増強:イソアルファ酸は、アルファ酸と比較し水溶性が高く、ビール中で安定、強い苦味を呈します。
  • 影響要因:アルファ酸の異性化効率は、煮沸時間、麦汁のpH、煮沸の激しさ等、様々な要因に左右されます。
  • 煮沸時間:煮沸時間が長くなるほど異性化は進行しますが、ある程度の時間で飽和します。
  • 麦汁pH:麦汁のpHが高いほど、異性化速度は高くなります。
  • 煮沸の激しさ:激しい煮沸は麦汁の攪拌を促し、熱伝達が効率的になります。
  • ホップの種類:ホップの品種、産地、作柄等によってアルファ酸の含有量は異なります。

3.その他の苦味成分

アルファ酸由来のイソアルファ酸が主要な苦味成分ですが、ホップには他にも苦味を持つ化合物が存在します。

  • ベータ酸(β酸/β-acids):ルプロン(Lupulone)、コルプロン(Colupulone)等が代表的です。ベータ酸は、アルファ酸よりもさらに水に溶けにくく、煮沸による異性化もほとんど起こらないため、直接的な苦味への寄与は小さいです。
  • 酸化されたアルファ酸およびベータ酸:長期間もしくは不適切な熟成によってアルファ酸やベータ酸が酸化され、苦味の質が変わり、しばしば不快な苦味として認識されます。
  • ポリフェノール(タンニン):ホップに含まれるポリフェノール類(タンニン等)も、わずかに苦味や収斂味を与える可能性があります。

まとめ

ホップに含まれるアルファ酸が煮沸によって変換されるイソアルファ酸がビールの苦味の主な起源です。異性化の効率は、煮沸時間やpH等の条件によって左右されます。他にも苦味を持つ化合物は存在しますが、その寄与は小さいとされています。

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