アサヒドライゼロの製造にはアルコール発酵を伴わず、添加物含む様々な食品原料が独自加工および混合されていると考えられ、それらを家庭で再現することは極めて難しいです。アサヒドライゼロの製品には、使用原材料が関連法令に則って記載されますが、配合比率や一部添加物は具体的な名称が記載されず、再現には試行錯誤が求められます。
まずはアサヒドライゼロの原材料表示を確認します。
アサヒドライゼロ原材料名(商品記載の原材料):(食品)食物繊維(米国製造又は仏国製造又は国内製造)、大豆ペプチド、ホップ/(食品添加物)炭酸、香料、酸味料、カラメル色素、酸化防止剤(ビタミンC)、甘味料(アセスルファムK)
上記情報および実際のアサヒドライゼロの風味を元に材料および調整方法を考察します。
麦芽:ビールの定義上必須とされる麦芽や麦芽の原料である大麦が原材料欄に記載されていません。従って、アサヒドライゼロには麦芽の風味は不要もしくは香料で再現していると考えられます。
- 食物繊維(米国製造又は仏国製造又は国内製造)
- 目的:ボディ(コクや厚み)や口当たり向上のために使用されます。通常のビールでは、麦芽由来の未発酵糖(デキストリン)やタンパク質、アルコールがボディに寄与しますが、糖質・カロリー・アルコールゼロのドライゼロではこれらが少ないため、食物繊維がその役割を担います。また、泡持ちにも寄与する可能性もあります。複数の原産国が記載されており、性質の異なる食物繊維素材のブレンドも想定されます。
- 風味:基本的に無味無臭で、直接的な風味への寄与は小さいですが、口当たりが変わることで舌が感じる風味の印象に影響を与えます。炭酸の刺激を和らげる効果も期待できます。
- 大豆ペプチド
- 目的:ビールらしいクリーミーで長持ちする泡の形成に寄与します。ビールの泡は、ペプチドやタンパク質やホップポリフェノール等が二酸化炭素を抱き込むことで維持されます。
- 風味:泡の品質差は、香り立ちや口当たりに影響します。特有の風味を有する大豆由来かつ旨味成分でもあるペプチドですが、アサヒドライゼロに使用される大豆ペプチドは風味に影響しないように加工されていると考えられます。
- ホップ
- 目的:アルファ酸等が苦味、精油成分が香りに寄与します。
- 風味:ホップ特有の苦味と香りを付与されます。
- 炭酸
- 目的:発泡性を与えます。ビールや発泡酒等の酒類では二酸化炭素(炭酸ガス)の原材料としての使用は記載義務はありません。
- 風味:高い炭酸濃度は、飲む際の刺激(ノドごし)、爽快感、ドライでキレのある印象に寄与します。
- 香料
- 目的:麦芽風味や酵母による発酵過程で生成されるエステル類や高級アルコール等など、ビール特有の風味を再現するために何らかの香料が使用されていると考えられます。アサヒドライゼロ自体は発酵を利用しないと考えられ、これらの風味成分を外部から補う必要があります。一括表示「香料」としてブラックボックス化されており、具体的な香料名の特定は困難です。アサヒスーパードライの使用済み回収酵母からビール風味成分を抽出し、香料として使用しているかもしれません。
- 風味:「ビールらしい」と感じさせる、麦芽やホップや酵母発酵由来の風味と考えられます。
- 酸味料
- 目的:飲料のpHを下げて、酸味やキレ、爽快感を与えます。一般的なビールも発酵によりpHが下がりますが、ノンアルコール飲料では酸を添加してpHを調整します。これにより、甘味や苦味が単調になるのを防ぎ、味全体のバランスを整えます。アサヒドライゼロの有機酸を分析をすれば、その組成は確認できます。
- 風味:酸味の付与により、全体的な風味の調整に寄与します。
- カラメル色素
- 目的:ビールらしい色を付けるために使用されます。
- 風味:基本的には無味無臭であり、風味への寄与はほぼありません。
- 酸化防止剤(ビタミンC)
- 目的:製品が時間と共に酸化するのを防ぎ、品質の劣化(オフフレーバーの発生や色の変化など)を抑制します。
- 風味:ビタミンC自体の酸味は恐らくアサヒドライゼロには寄与しておらず、製品本来の風味維持に貢献します。
- 甘味料(アセスルファムK)
- 目的:アセスルファムKはゼロカロリーの高甘味度甘味料の一つです。特に糖質ゼロ・カロリーゼロを謳うドライゼロにおいて、アルコールや残糖が少ないことによる味の物足りなさを補い、苦味や酸味とのバランスを調整する役割を果たします。
- 風味:苦味や酸味を和らげ、味のバランスを整えます。アセルファムKの後味は弱いとされ、砂糖のような甘ったるさを残さずに甘味を感じさせることで「ドライ」さも表現可能です。
家庭でのアサヒドライゼロ再現例
一般家庭でも入手可能な食品原料や用具での再現を試みます。再現のポイントは、麦フレーバー、ホップフレーバー、酸味、甘味、ボディ、炭酸を用意してブレンドするイメージです。麦フレーバーはビールらしさには重要な因子と考えられますが、アサヒドライゼロの原材料表からは、明確に”(大)麦”を想起させる原材料は記載されていません。もしかしたら、”香料”に何かしらの秘密があるのかもしれません。
用意するもの
- 麦汁
- 淡色のモルトエキスを加水し調整する。
- あるいは、ごく少量の麦芽を低温で短時間だけマッシングして調整する。
- あるいは、麦茶を利用する(焙煎風味が付与されるかもしれない)。
- もしくは、ドライゼロの再現には不要かもしれない。
- ホップ
- ホップペレットを少量煮出して作る(※ ホップは煮出しすぎたり量が多すぎたりすると、草っぽい、渋い、または不快な苦味が出やすいので注意が必要です)。
- 酸味
- 食品用の酸味料(乳酸、クエン酸等)
- 甘味
- 酵母は使用しないため発酵性の糖類(ブドウ糖、ショ糖、てんさい糖、オリゴ糖等)を使用可能。
- アセルファムKが最適と考えられる。
- 口当たり
- マルトデキストリンで調整する。
- 炭酸
- 炭酸水の混和、または、炭酸ガスを注入する。
作り方の手順
- 麦汁の調整
- モルトエキスをお湯で溶かし、ごく薄い麦汁を調整します。
- あるいは、少量のピルスナーモルトなどを使い、40-50℃程度の低温で30分程度マッシングし、ろ過して薄い麦汁を調整します。
- あるいは、麦茶を用意します。
- もしくは、麦汁の調整自体は不要かもしれません。
- ホップエキスの調整
- 少量(例:1リットルに対し0.5g〜1g程度)のドイツ産ホップペレットを少量のお湯で5〜10分程度煮出し、「ホップティー」を調整する。煮沸時間やホップ量によって苦味や香りの制御は可能です。
- ブレンド
- 上述の麦芽風味の液体と、ホップ風味の液体を香りの再現性を確認しつつ、少量ずつ混ぜ合わせます。
- 基本となる「ノンアルコールビール風味液」ができます。
- 風味の調整
- この液体を少量取り分け、酸味(乳酸等)を少量ずつ加えていきます。pH分析機や試験紙があればpH4.0~4.4程度を目安にすると良いかもしれません。
- 酸味を加えたものに、甘味(アセルファムKやブドウ糖等)を少量ずつ加えていきます。
- 苦味や香りが不足しているようであれば、ホップティーをさらに少量ずつ加え、苦味や香りを調整します。
- ボディや口当たりが不足しているようであれば、マルトデキストリンを少量ずつ加えていきます。
- 炭酸添加
- 味の調整で決まった比率で多めにブレンド液を作り、十分に冷却します。
- このブレンド液を炭酸水で割るか、または強制炭酸ガス注入器を使って高い炭酸ガス濃度を注入します(アサヒドライゼロは炭酸が強めです)。
- 完成
- 必要に応じて味と炭酸を最終調整して完成です。
結論として、家庭でアサヒドライゼロを再現することは不可能ですが、上記のような「風味をブレンドする」アプローチで、それに近い「ドライでキレのあるノンアルコールビールテイスト飲料」は自作可能です。
より簡易的にノンアルコールビールを再現できるよう今後も研鑽いたします!