Hazy IPAにおける乳糖(ラクトース)は、その独特の口当たりと甘みを付与し、さらに濁りの安定性にも寄与するために使われる重要な副原料です。特にMilkshake IPA等、デザートライクなビアスタイルにも利用されます。
乳糖とは
乳糖の特徴や役割は以下になります。
- 非発酵性糖:乳糖は、通常のビール酵母(Saccharomyces属)が代謝できない「非発酵性糖」です。つまり、発酵が完了した後もビール中に残り続けます。
- 甘みの付与:発酵されないため、ビールに自然な甘みが残ります。グラニュー糖などの一般的な糖類に比べて甘さは控えめですが、この穏やかな甘みがホップのアロマと調和します。
- ボディと口当たりの向上:乳糖はビールに溶け込んだ状態で残るため、ビールの最終比重(FG)は高く維持されます。この結果、ボディが増し、滑らかな口当たりを付与します。
- 濁りの安定性への寄与:乳糖がビール中に残ることで、最終比重(FG)が上昇し、ビールの粘度が高まります。この結果、濁りの原因となる微細な粒子(タンパク質、ホップポリフェノール、酵母等)が重力によって沈降しにくくなり、安定したヘイズに寄与する可能性があります。
- ホップの苦味の緩和:Hazy IPAは大量のホップを使用するため、苦味が強くなる傾向があります。乳糖の甘みとボディが、このホップの苦味を和らげ、全体的なバランスを整える役割を果たします。特に、非常にホッピーなフレーバーとバランスの取れた甘さを持つビールを作るのに適しています。
- スイーツ感の演出:ホップ由来のフルーツ系のアロマと組み合わせることで、例えばミルクシェイクのような、濃厚でデザート感覚のビールを表現することができます。
乳糖の使用方法
乳糖は一般的に白色の粉末状で流通しており、扱いも容易です。
- 添加タイミング
- 煮沸終盤(推奨):麦汁の煮沸終了10〜20分程度前に投入し、麦汁に溶解させます。このタイミングで加えることで、乳糖が完全に溶解し、殺菌されます。
- 発酵後(二次発酵時または瓶詰め直前):発酵終了後のビールに直接溶解させて加えることも可能です。この場合は、乳糖を少量のお湯などで完全に溶解させてから、ビールに混ぜ込むようにします。二次発酵タンクに移す際や、瓶詰め・ケグ詰め直前に加えることで、より精密な甘さの調整が可能になりますが、均一に混ざりにくい場合や、殺菌の工程がないため衛生管理に注意を要します。
- 使用量
- ビアスタイルや目指す風味によって調整します。
- 目安は5〜25g/L程度です。
- 5〜10g/L:微かな甘みと口当たりの滑らかさの向上。
- 10〜20g/L:明確な甘みと、よりクリーミーなボディ。
- 20g/L以上:ミルクシェイクIPAのような、濃厚なデザート感覚。
- 少量から試してみて、自分の好みに合う量を見つけるのがおすすめです。
- 溶解方法
- 熱い麦汁に直接投入すれば溶解します。
- 発酵後のビールに加える場合は、事前に少量の温水(またはビールの一部を温めたもの)に乳糖を溶かしてから投入すると、均一になりやすくなります。
- 注意点
- 乳糖不耐症:乳糖は乳製品由来の糖であるため、乳糖不耐症の方は消化できません。OG/FGへの影響:乳糖は発酵しないため、OG(初期比重)を上げ、通常よりも高いFG(最終比重)を示すことになります。
- 風味のバランス:過剰な乳糖の使用は、ビールの風味バランスを崩す可能性があります。アルコール自体の風味やホップ由来の苦味とアロマ等、他の要素との調和が求められます。
乳糖はHazy IPAに独特の個性を加えるための強力なツールですが、その特性を理解し、バランスを考慮することが鍵となります。