アルコール度数1%未満のビールの水質調整

アルコール度数1%未満のビールの水質調整は、エタノール濃度が低いため通常のビール以上に飲料品質を左右すると考えられます。低アルコールの場合はボディ感やアロマ保持効果が弱く、成分調整によって改質される可能性があります。ここでは、イオンと酸アルカリの役割を考察します。

水質調整の基本

アルコールにはボディ(口当たり、コク)の付与、ホップ由来苦味のマスキング、アロマ成分保持の役割があります。このため、ノンアルコールビールは「水っぽい」「薄い」「苦味がとがっている」「アロマが弱い」と感じられることがあります。水質調整によって、より「ビールらしい」口当たりと風味のバランスを目指します。

出発点:使用する水質の確認

水道水の水質分析結果は地域の水道局のウェブサイトで公開されている場合が多いです。市販のミネラルウォーターや蒸留水をベースに調整する、もしくは、水質が確認できない場合は水質検査キットを利用する方法も考えられます。

主要なイオンとその役割

1. カルシウム(Ca²⁺)

  • 役割
  • 酵母の凝集性、健康、代謝に不可欠。
  • ホップの苦味成分の沈殿を促進させる。
  • プロテインブレイク(熱凝固)を助け、ビールの透明度と安定性を高める。
  • マッシュのpHを低下させる。
  • 推奨濃度:50〜150ppm(mg/L)
  • 主な添加物
  • 硫酸カルシウム/石膏(CaSO₄·2H₂O):カルシウムと硫酸塩を同時に供給。苦味をシャープにする効果も。
  • 塩化カルシウム(CaCl₂):カルシウムと塩化物イオンを同時に供給。口当たりをまろやかにし、甘みを感じやすくする。

2. 塩化物(Cl⁻)

  • 役割
  • ビールの口当たりをまろやかにし、ボディ感、甘みの不足を補う。
  • ホップの苦味を和らげ、丸みを持たせる効果がある。
  • 推奨濃度:50〜200ppm(mg/L)
  • 主な添加物
  • 塩化カルシウム(CaCl₂):カルシウムも同時に供給。
  • 塩化ナトリウム/食塩(NaCl):ナトリウムも同時に供給。少量で口当たりを改善するが、多すぎると塩辛くなる。

3. 硫酸塩(SO₄²⁻)

  • 役割
  • ホップの苦味をシャープに強調し、ドライでクリスピーな口当たりを与える。濃度が高いと不快な苦味に繋がります。
  • 推奨濃度:50〜250ppm(mg/L)
  • 主な添加物
  • 硫酸カルシウム/石膏(CaSO₄·2H₂O):カルシウムも同時に供給。
  • 硫酸マグネシウム/エプソムソルト(MgSO₄·7H₂O):マグネシウムも同時に供給。

4. ナトリウム(Na⁺)

  • 役割
  • 少量は口当たりを滑らかにし、甘みやコクの感覚を高める。
  • 過剰な添加は塩辛くなり、風味を損なう。
  • 推奨濃度:0〜50ppm(mg/L)
  • 主な添加物
  • 塩化ナトリウム/食塩(NaCl):塩化物も同時に供給。

5. マグネシウム(Mg²⁺)

  • 役割
  • 酵母の必須栄養素であり、酵素反応に不可欠。
  • 過剰な濃度(50ppm以上)は渋みや不快な苦味に繋がる。
  • 推奨濃度:0〜20ppm(mg/L)
  • 主な添加物
  • 硫酸マグネシウム/エプソムソルト(MgSO₄·7H₂O):硫酸塩も同時に供給。

6. 炭酸水素塩(HCO₃⁻)/アルカリ度(RA)

  • 役割
  • マッシュpH上昇の緩衝作用がある(アルカリ度が高いほどpHが上がりにくい)。
  • アルカリ度が高い場合は、ホップの苦味を強く感じることがある。
  • 調整方法:高すぎる場合は、酸(下記参照)を添加してアルカリ度を下げます。低い場合は、炭酸カルシウムや重曹(NaHCO₃)で上げることができますが、IPAでは通常下げることが多いです。

pH調整剤(酸)

  • 役割:仕込み水のpH、特にボイル後の最終液のpHを目的の範囲に調整します。IPAでは一般的にpH5.0〜5.5が理想とされます。pHはホップの苦味抽出効率や風味に影響します。
  • 主な添加物
  • 乳酸:最も一般的で、風味への影響が少ない。
  • リン酸:風味への影響がほとんどなく、pH調整に効果的。
  • クエン酸:フルーティーな酸味を付与するが、乳酸菌等によりダイアセチルに代謝されるリスク有。

Hazy IPA風ノンアルコールビールへのアプローチ

麦芽不使用のレシピをHazy IPAに寄せる場合、以下のような調整が考えられます。

  • スタート:蒸留水(RO水)または非常に軟水から始めるのが理想的です。
  • カルシウム(Ca²⁺):70-100 ppm
  • 塩化カルシウムと硫酸カルシウムでバランスよく
  • 塩化物(Cl⁻):150-200 ppm(高めに設定し、口当たりを重視)
  • 塩化カルシウムで供給
  • 硫酸塩(SO₄²⁻):50-100 ppm(塩化物より低くし、苦味をまろやかに)
  • 石膏で供給
  • ナトリウム(Na⁺):0-30 ppm
  • 必要であれば食塩でごく少量
  • マグネシウム(Mg²⁺):0-10 ppm
  • 通常、他のミネラルで十分
  • pH:最終液のpHを5.0〜5.3程度に調整(乳酸やリン酸で)。

備考

  • 計算ツール:水質調整は複雑なため、オンラインの醸造水計算ツール(例:Bru’n Water、BeerSmith等)の使用が便利です。
  • 添加タイミング:上記水質調整剤は、ボイル前の仕込み水に添加しておくのが一般的です。

原材料表示:ビール等の酒類(アルコール度数1%以上)に上記水質調整剤を使用した場合は製品への表示をしなくても良い場合がありますが、清涼飲料水(アルコール度数1%未満)に使用した場合はいずれも原材料表示が必要と考えられます。

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